ダトグラフ アップダウン

 

こんにちは、ウォッチコンシェルジュの木村です。

今回はA.ランゲ&ゾーネの名作ダトグラフのご紹介です。

その前にあまり知られておりませんが私が大好きなA.ランゲ&ゾーネとスイス時計業界の復興に大きく携わった方を紹介いたします。

 

1.Aランゲ&ゾーネ復興を支えたギュンター・ブリュームライン氏

Gunter Blümlein

LMH(Les Manufactures Horlogéres)および、リシュモン時計部門の最高経営責任者(1943〜2001年)

 

“ブリュームライン氏の存在なくして、今のリシュモン グループが成功を収めることはなかっただろう。”

後に彼と共にA.ランゲ&ゾーネを復興したウォルター・ランゲはこう語っている。

 

1943年ギュンター・ブリュームライン氏はドイツのニュルンベルクに生まれました。1981年にIWCを買収したVDO社(自動車計器製造会社)からの誘いで、IWCのコンサルタントとなる。1984年には、同じくVDOの傘下にあった、ジャガー・ルクルトの戦略担当責任者も兼ねるようになる。

 

氏が行ったのは、徹底した"選択と集中"である。懐中時計を製造していたIWCは、チタンケースを持つ新しいスポーツウォッチ「ポルシェデザイン by IWC」を発表する。ムーブメントの下請けだったジャガー・ルクルトの「レベルソ」をブランドアイコンに育て上げ、再び複雑時計を製作するように方向転換を行った。ブランドの基幹モデルを明確に打ち出し経営の再ブランディングを行う。また、コストカッターでも手腕を発揮し有名でした。自社製ムーブメントを誇りとしていたIWCでは反対を押し切りETAを採用することで、IWCは従来よりも低い価格でプロダクトを製造できるようになり、たとえ複雑機構を載せたとしても今迄よりも価格は低く抑える事に成功した。ブリュームライン氏の手腕がいかんなく発揮されたのが、1985年に発表された、IWCの「ダ・ヴィンチ」ETA7750というエボーシュを使うことで、永久カレンダーながら驚くほど戦略的な価格を実現しています。

 

IWCとジャガー・ルクルトの立て直しに成功した氏は、よりハイエンドなブランドを求めドイツの至宝と言われた歴史ある名門A.ランゲ&ゾーネの復興を考えました。東西ドイツの統合直後、ブリュームライン氏はA.ランゲ&ゾーネの商標を取得。生産設備を整え、1994年に最高級腕時計の生産を始める。ワールドマーケットの高級時計コレクター向けに特化した商品展開を選んだのです。「高級時計のコレクターは、世界でせいぜい5000人程である」。その5000人をターゲットとして利益を出すビジネスモデルを考案しました。つまりは量産型ではなく伝統工芸による職人の手作業にこだわった昔ながらの機械式時計創りの極みであります。しかも毎年のように新しい自社製ムーブメントを生み出し、次々と世に送り出したのはブリュームライン率いるA.ランゲ&ゾーネが初めてでした。

 

2000年の時点で、IWCとジャガー・ルクルト、そしてA.ランゲ&ゾーネは、LMHというグループを構成していました。その価値を評価したリシュモン グループは、約30億スイスフラン(日本円で約2600億円)で、LMHを買収しました。この時計業界最大の買収劇は、LMH傘下企業の価値以上にブリュームライン本人の手腕を見越したものだったといわれています。買収先のリシュモンで、時計部門の最高経営責任者となるも2001年に急逝する事となります。彼がブランディングしたビジネスモデルは、結果としてリシュモン グループを大きく急成長させることとなる。

 

氏が携わり理想が詰まった最後の遺作と言って過言ではないダトグラフをご紹介いたします。

 

2.ダトグラフ発表

 

 

1994年に開発着手されてから5年もの歳月をかけ、1999 年に満を持してA.ランゲ&ゾーネが発表。当時ダトグラフは世界中の注目を集めました。独創的な意匠とムーブメントの造形美は多くの追随するモデルを産み、今でも20世紀のクロノグラフ最高傑作と評価されています。その高度な技術力と、均整のとれたダイアルデザインが、多数存在する従来のクロノグラフモデルとは明確に一線を画しています。

 

 

 

コラムホイール軸とした古典的な制御方式やジャンピング・ミニッツカウンターとフライバック機能を搭載し、職人の妥協しない優れた手作業と明晰な構造美が裏蓋側からこの時計の素晴らしさを目にした方に物語っています。グラスヒュッテの伝統時計技法の粋を集めたこのピースは、クロノグラフ機構が動き始める瞬間にその魅力をあますことなく見せてくれます。起動と同時に多数のレバーやデテント、歯車が複雑に絡み合う様は実に壮観です。

 

 

ダイアルデザイン面では、アウトサイズデイトと、積算分針用のふたつのスモールセコンドダイアルの三つの表示が正三角形で結ばれ美しい均整の取れたビジュアル効果を生みだしています。

 

3.クロノグラフの新境地ダトグラフUP/DOWN

 

 

2011年に発表された新モデルには、設計技師とデザイナー達の手で多くの改良が加えられています。他のブランドではムーブメントがありそこからデザインを起こしますが、A.ランゲ&ゾーネではケースとダイアルのデザイン案が先に具現化しそこからムーブメント開発に落とし込まれていきます。ダイアルでは、今迄はローマ数字のII、VI、X が使用されていましたが、バーインデックスに変更されました。

 

更にモデル名に“UP/DOWN”とありますが、パワーリザーブ表示が6 時位置に配置され駆動時間の残量を表示します。またパワーリザーブが36時間から60 時間に長くなっています。

 

直線的で長く美しい針とインデックスの長さのバランスもよく、時代が変わっても色褪せる事のない審美性を持ち合わせています。

 

 

直径が39mmから41mmに大きくなりケースから伸びる力強いマッシブなラグが、今までよりも短く変更されストラップを固定するばね棒の穴の箇所を低くした事で時計全体の重心が低くなり、今まで以上に装着感が優れています。クロノグラフ機能を制御するコラムホイール、スワンネック微調整装置、ハンドエングレービングを施したテンプ受け、赤と青のコントラストが綺麗なビス止め式ゴールドシャトン、熟練の職人が手作業で仕上げられた美しい装飾が相まって他の機械とは一線を画す存在感です。A.ランゲ&ゾーネの素晴らしさは均整の取れた気品あるダイアルと造形美が美しいムーブメントとの二面性を持ち合わせている事ではないでしょうか。落ち着いた外見ながら裏からはオーナーのみが味わえる特別感があります。

 

4.理屈ではなく

 

時計を選ぶ時に大切だと思うのは、高額になればなる程購入時に払った金額やブランド価値ではなく、その人が持ち併せ養ってきた審美眼が共振するかしないかではないでしょうか。

是非、一度お手に取ってじっくりと実機をご覧ください。

 

ランゲ&ゾーネ

ダトグラフ アップ/ダウン

Ref,405.035(LS4052AD)

素材:プラチナ

ケースサイズ:41mm

コメントを残す