時計精度

こんにちは。南青山クロンヌウォッチコンシェルジュ阿部です。

前回までは、特殊な機構の時計についてお話をしてきましたが、

今回は皆さまからご質問いただく「時計の精度」についてお送りしていきます。

 

~精度(歩度)とは~

原子時計を基にした標準時とのズレ(進み・遅れ)の度合いのことです。

端的に言うと「時報」とのズレのことで、単位としては「日差」(秒/日・s/d)で表します。

当店での精度の目安は、機械式時計では日常の使用に耐えうる範囲内としています。

店頭で展示中の時計はブランドも多種多様に取り揃えており、

更に新品と中古が混在している状況です。

そのため許容範囲にある程度の幅を持たせております。

アンティーク品ではその年代の部品加工精度や素材自体の経年等も加味して

日差±1分以内を目安としています。

 

腕時計は基本的にゼンマイが巻き上がった状態で若干の「進み」に調整をしています。

理由としては、ゼンマイを完全に巻き上げてから時間と共にほどけていくにしたがって

伝わる力が徐々に弱まっていくため、時計の精度は「遅れ」に傾いていきます。

特に手巻きの時計では顕著に表れてきます。

そのため予め「進み」調整をし、後から出てくる「遅れ」を相殺するため若干の進み調整となります。

当然自動巻きの時計は腕の動きによってゼンマイが巻き上がる為その値は小さくなりますが、

帰宅時や就寝時に腕時計を外すことを考えると、やはり「進み」調整が最善なのです。

 

~計測の仕方~

時計店や修理工房では目視で測る方法と機械で計測する2種類の方法を使い分けています。

目視・・・任意の時間に時計を合わせ、経過時間ごとにその時の日差を計測する。

・平置き(静的)やワインディングマシーン(動的)での計測がある。

・計測に時間がかかるが、その分実測に近い値が出る。

 

    

【平置き計測図】               【動的計測図】

 

計測器を用いる・・・タイムグラファーやウィッチ(Witschi)と呼ばれる計測器を用い、

脱進機と調速機の打刻音の間隔を計測し瞬間歩度として表示するもの。

 

【Wistchi】

・計測したその瞬間の状態がグラフで観察出来るため、歯車単位での異常も発見出来る。

 

【計測グラフ図】

 

~進み遅れの生じる原因~

磁気・・・電化製品等磁気を発生する物の付近で時計が磁気を帯び調速機に影響が出るため

温度・・・機械式時計は温度変化の差に因り金属が変形するため調速機に乱れが生じる

クォーツ式は低温時には電池の電圧が変わってしまうため遅れなどが生じる

姿勢差・・・着用時に時計の向きが変わる事で重力の影響を受けた調速機に偏りが出て精度が乱れることで生じる

その中でも、磁気については現代の日常生活において最も影響を受けやすいものの一つです。

急に時計が狂うようになってしまったとき、まず磁気を疑ってみてもいいかも知れません。

磁気帯びに関しては脱磁器で解消できます。

当店でご用意しておりますので、気になる方は是非お持ち下さいませ。

 

【脱磁器】

 

精度不良の原因としては上記のような外的要因の他に経年に因るものもあります。

・輪列の油切れや歯車、ホゾの焼け

・ヒゲゼンマイ(調速機)の偏心

・ゼンマイ(動力源)のへたり

 

~オーバーホールで改善されるもの~

上記の経年に因るものはオーバーホールで改善する場合が多くあります。

部品の破損がない限り、機械内部の洗浄や注油、焼け取りを施します。

ヒゲゼンマイの偏心は熟練の時計師によって正しいかたちに修正され、再調整されます。

その後、下図のような緩急を微調整する装置を操作し、精度を高めていくのです。

 

【緩急針図】

囲み部分をミクロン単位で動かし調整します。

 

 

今回は「精度」とはどんなものか、駆け足でご説明いたしました。

次回はその精度を高める為のオーバーホールの内容についてお話しします。

オーバーホールの手順も詳しくご紹介できたらと思います。

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